「うつ病」という病気を知らない方は少ないと思います。
そのうつ病の症状の出方を表す言葉に「仮面うつ(病)」というものがあります。
ですが、この「仮面うつ」という言葉は、かなりの頻度で間違った使用のされ方をしています。
私はこの言葉が正しい意味で使われるようになってほしいと思っています。
「仮面うつ」という言葉の意味が間違って使われていることが多いので、正しい意味が広まってほしい。
仮面うつ病とは身体症状が前面に出てくるうつ病
まず、うつ病という病気は、どういう病気だというイメージを持っているでしょうか?
多くの方が、「気分の落ち込み」「やる気が出ない」「死にたいと考えてしまう」などといった症状があるというイメージを持っているでしょう。
うつ病の症状の正確な定義や診断の基準はここでは省きますが、うつ病とは心の不調、つまり、精神の病気と考えるのではないかと思います。
基本的にはそれで間違ってはいません。
ですが、うつ病の症状はそれだけではないのです。
気持ちに関わる症状でも、「不安」「不眠」「好きなことが楽しくない」などもありますし、人によって千差万別で、もっと別の形で現れることもあります。
例えば「頭痛」「腹痛」「肩こり」などといった、精神だけでなく身体の症状として現れることがよくあります。
ちなみに、私の場合は「吐き気」がひどかったです。
ですから、実はうつ病になると「気分は落ち込むし、不安だし、でも体は動かない」だけでなく、「なんだか頭も痛い」となる人も多いのです。
多くの場合、うつ病は精神的なものと身体的なものを含めて様々な症状が一緒になって出てきます。
そして、その様々な症状のうち、「頭痛」「腹痛」「肩こり」などの身体的な症状がメインの症状として出てくるのが仮面うつ(病)なのです。
なぜ「仮面」というのかというと、それは、うつ病と聞いて多くの人がイメージする精神的な症状ではなく、それを仮面で隠すように身体的な症状が出てくるからです。
精神症状が身体症状の仮面で隠されてしまっているのが「仮面うつ」なのです。
仮面うつの怖さ
仮面うつ病が気持ちではなく体の症状が出てくると聞いて「死にたいと思わないなら良いんじゃない?」と思う方もいるでしょう。
しかし、そんな事はありません。
確かに、身体症状だけでとどまっている時は、うつ病の程度としてはまだ軽い場合が多いようです。
ですが、私は身をもって知りましたが、仮面うつは本当に怖いです。
例えばもし自分が、又は身近の人が「気持ちが落ち込む」「朝起きることができない」「死にたい」となったら、すぐにうつ病をかもしれないと考えるでしょう。
しかしそうではなく「頭痛が取れない」「お腹が痛い」「最近ずっと肩がこっている」だったらどうでしょうか。
「風邪かな」「変なもの食べたかな」「運動不足かな」と考えるでしょうし、もし病院に行くとしても精神科や心療内科ではなく、内科や整形外科に行くと思います。
そして、病院での診断も「風邪」や「疲労」となると思います。
私自身も原因不明の吐き気と嘔吐がずっと続き、その間何度か病院に行きましたが疲労からくるものと診断され、胃腸薬などを出されて終わりでした。
そうなると、私もそうでしたが「そんなものか」と思ってこれまで通りに頑張ってしまいます。
しかし、その間もうつ病はジワジワと肉体も精神も侵していきます。
そして身体的な不調を抱えたまま頑張っていると、ある時突然、一気に精神的な症状として現れます。
つまり、うつ病特有の精神的な症状が仮面で隠されてしまうため、病気の発見が遅れて、気付いた時には重症化してしまうのです。
初めから「ちょっと最近元気がないな」というのうを感じていれば、できるだけストレスを減らしたり、早めに心療内科に行ったりなど対処しやすいです。
ですが、身体症状が前面に出てくる仮面うつだとそれができず、病気の早期発見ができないのです。
ですから、頭痛や腹痛などの症状がある時に最初に行くのは近所の内科などでしょうが、原因不明で長引く場合、その症状は「うつ病のサイン」の可能性もありますので、仮面うつ病を疑い、心療内科などに行くことを検討してほしいと思います。
「仮面うつ」という言葉が多くの場で間違った意味で使用されている
では、私がなぜ仮面うつについてこのような記事を書いているかについてです。
1つは先程も言いましたが、私自身が仮面うつで苦しみ、その怖さを知ったからです。
そしてもう1つは「仮面うつ」という言葉がかなりの頻度で間違った使われ方をしているからです。
例えば以下の記事です。
勝谷誠彦氏と中川淳一郎氏が時事問題について酒を飲みながら対談する動画コンテンツ『勝谷誠彦×中川淳一郎ヘロヘロ対談』の配…
勝谷:「仮面うつ」っていうのがあるじゃん。要するに会社に行きたくないから「オレはうつだ」って言ってるっていう。アレはねえ、たしかあるのかなとは思ったよ。
中川:でも、勝谷さんは「真性うつ」ですよね。
勝谷:うん。だって体が動かないんだからね。あと、うつの間もラジオには出てたんだけど、スタッフが言うには完全に顔もおかしかったみたいだしね。(口をポカーンと開けて、頬を下に垂らしたような顔をして)「こんにちは~か~つや~まさ~ひこで~す~」みたいな。症状として明らかに顔が変だったんだよ。そんな状態で番組はよく使ってくれたよ。本当にありがとうございます。
だからねえ、「真性うつ」っていうのは、それくらい体に症状が出るんだよね。だから「仮面うつ」とか「新型うつ」って呼んでしまうの、はちょっと可哀想だけど「真性うつ」とは違って、やっぱり気持ちの問題なのかなとは思っちゃうけどね。
2015.09.08 07:00 NEWSポストセブン うつ病から快復した勝谷誠彦氏が告白「うつの前は躁病だった」
上記のリンク先の記事から該当箇所を抜粋して引用させていただきました。
この記事内での「仮面うつ」の使い方は明らかに間違っています。
発言者である勝谷誠彦さんはコラムニストとして、歯に衣着せない切れ味鋭い弁舌で活躍されていましたが、2018年11月28日に亡くなっています。
亡くなった方にについて悪く言う気はありませんが、高い知性を持ち、言葉で仕事をされている方でもこのような誤用をしている例として挙げさせていただきました。
文脈からすると,、対談の相手である中川淳一郎さんも正しい意味を知らないようです。
「仮面うつ」という言葉のこのような誤用は他にも沢山あり、Twitterで「仮面うつ」で検索をすればいくつも見つけることができます。
そして、勝谷さんもそうですが、誤用の多くの場合、「仮面うつ」がいわゆる「新型うつ」や「非定型うつ」と同じものとされています。
「新型うつ」と「非定型うつ」もそれぞれ違うものですし、実際その症状で苦しんでいる方もいますが、それは別の話なのでここでは詳しくは述べません。
ですが、要は「仮面うつ」が「本当はうつ病でないにうつ病のふりをしている」という意味で使われているということです。
つまり「仮面うつ」が、病気の振りをする詐病の言葉として認識・使用されているのです。
私は、これは大きな問題だと思います。
まず、本当に仮面うつで苦しんでいる人が困ります。
もしある人が正しい意味での「仮面うつ」と診断を受け、他人にそのことを「私、仮面うつなんだ」と伝えた場合、「ああ、この人はうつ病のふりをしている嘘つきなんだな」と誤解されかねません。
そして何より、「うつ病は精神だけじゃなく、身体的な症状としても出てくるんだよ。それを『仮面うつ』というんだよ」という知識も、そもそも「仮面うつ」という言葉も知らないと、上記のような誤解を生むことはもちろん、自分で「仮面うつ」ということに気付けません。
つまり、原因不明に体の症状が続いた時「仮面うつ」言葉に正しい理解があれば、「あ!私もしかしたら仮面うつかも!心療内科へ行こう!」と考えることができます。
ですが、もし知らなければ心療内科に行こうという発想につながらないのです。
病気にしろ何にしろ、それを指し示す「言葉」があるというのは重要なことなのです。
ですから、「仮面うつ」という言葉が間違って使用されている現状は、本来の意味での「仮面うつ」が誤解され、見過ごされ、重症のうつ病患者を増やしてしまっているのです。
本当ならまだ軽い症状で済んだかもしれない人が重症化してしまったら、うつ病や仮面うつで苦しんでいる当人たちもそうですが、社会的にも大きな損失です。
だから私は、「仮面うつ」とういう言葉が間違って使用されていることが危険だと考え、「仮面うつ」という言葉の正しい意味が広まってほしいのです。
「『仮面うつ』はわかりづらい」という問題
ただ、「仮面うつ」という病状と言葉にも問題はあります。
1つは「仮面うつは診断も、投薬という判断も難しい」ということです。
例えば頭痛であったらその原因は様々です。
軽い風邪から、脳梗塞など重い病気まで、素人でも色々考えられます。
最初に行った医者が内科医ならそう考えるでしょうし、順番に探っていくにしても、検査などでまずは頭痛の原因として考えられるメジャーな病気を疑い、調べていくことが普通です。
ですから、もしかしたら経験のある機転の効く医者であれば頭痛などの身体症状から「仮面うつ」に思い至る事があるかもしれませんが、なかなかそうはいかないようです。
また、原因不明の身体症状が続いたから「仮面うつ」であると診断し、投薬をしたところで改善しなかったということもあります。
うつ病自体が患者と薬の相性が様々な病気なので、「頭痛が長引く」だけですぐに、精神科で使われるような薬を使うことは抵抗があるのは仕方のないことです。
もう1つは「名前が誤解を生みやすい」ということです。
うつ病は他の多くの病気と違って、自分の目も含めて外目にはわかりにくい病気です。
血が出るわけでもなければ、発熱もない。
身体的な痛みがあったとしても、耐えられないほどの激痛ということはほとんどないようです。
最近は血液検査や光トポグラフィなどで、客観的なうつ病の診断を行うこともありますが、多くの場合は問診、つまり自己申告をもとにした診断になります。
ですから、誤解を生む言い方かもしれませんが、意識的にしろ無意識にしろ「自分はうつ病だ」と嘘をつきやすい、又は医者からすれば正確な診断が難しい病気です。
実際、私がお世話になった心療内科の先生も、そういった人は少なくないとおっしゃっていました。
そして、言葉の話として、文脈によっては「嘘を付く」というのは「仮面をかぶる」ということがあります。
ですから「嘘」と「仮面」がイメージでつながってしまい「仮面うつ」が「うつ病だと嘘をついている」と誤解されてしまうのです。
端的に、私は「仮面うつ」という言葉が良くないと思います。
「精神症状が身体症状で仮面のように隠されている」ということを理解しれいれば納得できますが、「仮面うつ」だけではよくわかりません。
「仮面≒嘘」というイメージで考えてしまう人がいても仕方がない気がします。
ですから私は、もっと単純に「身体うつ」「体うつ病」などにしたほうがわかりやすい気がします。
私の浅慮による提案なので妥当かどうかはわかりませんが、「仮面うつ」がこれほど誤用されている現状をみると、もっと人に伝わりやすい言葉にしたほうが良いというのは間違っていないと思います。
まとめ
うつ病には、不安や気分の落ち込みなど、気持ちに現れる精神症状だけでなく、頭痛や腹痛などの身体症状が出ることもよくあります。
そして、その身体症状のほうが前面に出て、精神症状を隠してしまっている状態のことを「仮面うつ」といいます。
この仮面うつになると、本人も周りもうつ病であると考えないため、早期発見ができず重症化してしまうことがあります。
ですがこの「仮面うつ」という言葉は、知られていないどころか、多くの場合「うつ病のふりをしていること」と間違った使われ方をしています。
だから、私はこの「仮面うつ」という言葉の意味が、本来の正しい意味で広がって欲しいと思っています。
もしそれが無理なら、もっとわかりやすい言葉にして、まだ自分が鬱病に気づいていない人が重症化してしまう前に、早めに対処できるようになって欲しいと思っています。